日本に暮らすフィリピン人

2009年(平成21年)末における全国の外国人登録者数は約218万人。そのうちフィリピン人は21万人余りとなっており、全体の約1割を占め、中国、韓国・朝鮮、ブラジルに次いで登録者数が多く、その数は増加しつづけています。都道府県別にみると、愛知県には東京都についで多くのフィリピン人が暮らしており、その登録者数は25,923人となっています。

日本に定住するフィリピン人

フィリピン政府は海外就労を奨励しており、人口の約1割にあたる800万人以上が海外で働いています。就労先は香港、中東諸国、シンガポール、米国、カナダなど多国にわたります。海外で働いているフィリピン人労働者はOFW (Overseas Filipino Workers)と呼ばれ、多くの人がフィリピンの家族に送金します。2009年のOFWの送金総額は170億ドルに達しており、国内総生産(GDP)の約1割に相当します。

 日本では、1980年代中頃から、「興行」という在留資格を取得し、フィリピンパブなどで働くダンサーや歌手の来日が増え始めました。2005年に法務省令が改正され「興行」ビザの発給条件が厳しくなるまで、多いときで年間約7万人のフィリピン人女性が、このビザで来日しました。日本人の男性と結婚し家族を持つ人も多く、日本への定住化が進みました。

現在、日本に暮らすフィリピン人のうち、7万5千人以上が「永住者」の在留資格を取得しています。「日本人の配偶者等」の在留資格を持つ人も約5万人います。また、フィリピンから呼び寄せられた子どもや日系人など「定住者」の在留資格を持つ人は3万5千人余りです。これらの在留資格を持つ人々の多くは、地域の住民として定住していく人々です。

 また、2009年5月からは、日・フィリピン経済連携協定(JPEPA)に基づくフィリピン人看護師・介護福祉士候補者の受け入れが開始され、これまでに300人以上が来日、日本語や受け入れ施設での研修を行っています。一方で、経済連携協定に基づく受け入れとは別に、すでに日本に定住している人がホームヘルパー2級などの資格を取得し、介護現場で働いているケースも増えてきています。

 日本在住のフィリピン人のうち約8割、16万人余りが女性で、日本人の男性と結婚している人が多くいます。厚生労働省の人口動態調査(2008)によると、総婚姻件数のうち約5%が国際結婚で、日本人男性と中国・フィリピン国籍の女性の婚姻件数が多くなっています。日本人男性とフィリピン人女性の婚姻件数は2000年以降、毎年7千件を超えています。また、離婚件数も多く、年間4千組以上が離婚している現状があります 。

コミュニティの役割

人口の8割がカトリックを信仰しているフィリピンでは、カトリック教会を通じてコミュニティが形成される場合が多くあります。名古屋周辺の教会では、英語やタガログ(フィリピノ)語のミサも行われており、教会を中心に形成されたコミュニティがあります。名古屋市内ではみこころセンター(中区)や布池教会(東区)、城北橋教会(北区)などで行われるミサに多くのフィリピン人が集います。教会でミサに参加し、フィリピン人同士、生活情報や子育て、仕事に関する情報を交換し、タガログ語で話すことで日頃感じているストレスを発散する場にもなっているようです。

 フィリピン人の方からは家族関係に関する相談が増えています。配偶者からの身体的暴力、言葉の暴力に苦しむ女性もいます。日本人の配偶者の家族と同居する場合、配偶者の父母など家族との関係や日本の文化に戸惑うことも多くあります。離婚やさまざまな事情からシングルマザーとなる人もいます。子どもの認知や日本国籍の取得に関わる問題もあります。また、日本の生活にうまく適応できなかったり、孤独を感じたり、子育てに戸惑ったりすることもあります。過度のストレスからこころの問題を抱えている人もいます。また、近年、フィリピンから子どもを呼び寄せるケースが増えていることから、子どもの学校への適応、日本語習得、進学など教育に関する問題もあります。

名古屋市中区での取り組み

1千人以上のフィリピン人が暮らす名古屋市中区では、フィリピン人住民と町内会、行政との連携が進められています。2002年からクリスマスツリーのデコレーションコンペや栄東地区にある池田公園のボランティア清掃などにフィリピン人が参加するようになりました。のちに7月に開催される池田公園の夏祭りにも参加するようになり、フィリピンで最も人気のあるスポーツのひとつ、バスケットボール大会を通じて交流したり、フィリピンの踊りを披露するなどしています。地域の活性化を目的に設立された「栄東まちづくりの会」では、外国人住民を巻き込んだ地域活動の促進を活動の柱のひとつにしています。同会では中区で活動するFMCや中区まちづくり推進室などとともにタガログ語のDVや防災に関するリーフレットを作成、配布しています。

 単身で来日し、家族や親族と離れて暮らして、身近に頼れる人や母語で相談できる相手がいない多くのフィリピン人にとって、教会を中心に形成されるコミュニティやフィリピン人による支援団体は、頼りにできる場所のひとつと言えます。こうした相互扶助組織から、さらには地域に暮らす人々とつながり、互いに助け合える関係が築かれることを期待します。

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